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(2005年7月25日号記事)
INTERVIEW インタビュー
能楽師 津村禮次郎さん
特別な思いがある「小金井薪能」。これからも地域の文化として育てていきたい。

 夏の恒例行事「小金井薪能」が、今年も8月21日に行われる。そこで今回は、公演を控えた観世流シテ方(主役)の津村禮次郎さんに、小金井薪能への思い、能の魅力について語って頂いた。

―夏の恒例となった「小金井薪能」は、今年で27回目。きっかけは?
「もう20数年も前の話になりますが、夜桜見物をしながら、林望さん(市内在住エッセイスト)と「小金井公園で薪能がやれたら素敵ですね」と、雑談を交わしたのが事の始まりです。また、小金井市の社会教育の一環として能楽教室、公民館の成人学級といった普及活動を10年くらい続けていたこともベースになっています。
公園の使用許可、財政的なことなど問題は多々ありましたが、当時、林さんは20代、私が30代前半で若かったこと、そしてなによりも薪能を愛好する市民ボランティアの皆さんの情熱に支えられて実現し、今日まで続けてこられました」
―薪能は能舞台とは違った趣がある。
「能はもともと庶民の楽しみ、娯楽として生まれたものですが、薪能は興福寺の修二会(しゅにえ)に付随した、春の訪れを祝福する宗教的な儀式として始まりました。ですから、多くの場合は神社仏閣の催事として行われています。小金井薪能は、地域の文化として継承できないかと林さんと発案したものなので宗教行事ではありませんが、『火』は、人を神聖な気持にさせる力がありますよね」
―四半世紀以上続けられた薪能への思いは?
「自分が言い出したものですから、やはり特別な思いがあります。演ずる側からいえば、屋外の仮設舞台は、汗でお面がびしょびしょになるし装束は汚れる。雨が降って大騒ぎになり、へとへとになりながら舞台に上がったこともありました。通常の舞台と比べるとやりにくい環境ではあります。ただ、大変なこと、ハプニングを嫌がっていたらシテは務まりません。それを含めて薪能だと思っています。
 また、二十数年も同じ場所で毎年できるという機会は滅多にありません。30代からはじめて現在60代、芸能者としての歴史の定点観測という意味でも薪能は重要な行事となっています。僕自身、薪能で育てられてきましたし、これからも地域文化として育てていくつもりです」
―今年の曲目「船弁慶」は、初心者向けと紹介するガイドもあるが、みどころは?(あらすじは下方参照)
「船弁慶は、一曲のうちにテクニックにしろ、音楽、表現にしろ、能の色んな要素が入っています。前半は静御前の雅やかで美しい舞、後半は平知盛の亡霊が源義経、弁慶らを襲う『修羅もの』と呼ばれる戦いの舞。そのまったく異なる二人をひとり(シテ)で演じます。またドラマとしても分かりやすく、能の面白さが伝わりやすい曲目です」
―古典芸能の中でも能は難しいという人も多い。ご自身の能との出会いは?
「僕が最初に見たのは大学祭の学生能なんです。高校生のときは油絵を描いていて美術大学を目指そうとしたのですが、周りから反対され、普通の大学へ。僕にとって非常に後悔する決断になってしまいました…」
―が、そこで能と出会った。どこに魅力を?
「意味は分かりませんでしたが『よ〜よ〜』と発する謡や音楽、動きの面白さに惹かれました」
―プロへの道は?
「4年生のとき、大学祭の公演でシテを務めることになり、個人的に稽古をつけてもらうため、師匠(故・津村紀三子さん)の家に下宿をしまして。そこからだんだんのめり込んでいきました。この世界に入るときにも反対はありましたが、今度は絵のときのように妥協はしないという思いが強くありましたね」
―古典だけでなく創作能を、また、他ジャンルの方々と所作指導や演出、共演などもされている。
「小さいときから能をやっている人とは違い、僕には自然に身についたものがありません。ですから、20年近くは身体に覚えこませるために古典をしっかり勉強してきました。また、あえて新しいことをするつもりもなかったのですが、師匠が創作能を作っているんです。それで40代になってから師匠が作った曲を僕なりの感性を入れてやってみようと発表しました。そこから創作能も徐々に手掛けるようになり、その延長線上で、フラメンコ、コンテンポラリーダンス、現代劇といった他のジャンルの方々と仕事をする機会が増えました」
―古典以外の仕事をして得るものは?
「膨らみや幅がでますね。それから色んな視点を持つことができます。古典も作られた当初は新しいものですから、そういった意味でも色んな芸能を取り込んで、どう勝負していくかだと思っています。ただ、古典をやるときは変えることはありません」
――小金井薪能で船弁慶をするのはこれで二度目だそうだが。
「第4回目、23年前にやっています。このときはまだ30代でしたから、とにかく張り切り、かなり疲れた記憶あります。今回のほうがもうちょっと上手くなっていると思います(笑)」


プロフィール
1942年、北九州市生まれ。観世流シテ方。緑泉会主宰。重要無形文化財(能楽総合)保持者。二松学舎大学文学部講師。
一橋大学在学中に観世会に所属し女流能楽師の開祖、津村紀三子に師事。69年観世竜師範。
現在、「緑泉会例会」を年に5回、「小金井薪能」を毎年行うほか、様々な公演に参加。古典と並行して「オセロー」(92年初演)、などの新作能も手掛けている。また、野田秀樹演出の「赤穂浪士」「桜の森の満開の下」をはじめ、現代劇、コンテンポラリーダンスなど他ジャンルへの所作指導、演出、共演など国内外で幅広い活動を行っている。
【今後の主な活動予定】
●戸隠薪能 8月6日。長野県戸隠神社中社。演目「紅葉狩」。詳細問い合わせ先/戸隠遊行塾事務局TEL026-228-7663
●現代能「ふたりのノーラ」 8月9・10日。梅若能楽院会館(中野区東中野)。詳細問い合わせ先/名取事務所TEL044-854-5366

【小金井薪能】
日時/8月21日(日)。17時30分開演(17時開場)
場所/都立小金井公園江戸東京たてもの園前(雨天の場合は中央大学付属高等学校講堂)
内容/木遣りによる火入れ儀式・狂言「因幡堂」山本則俊ほか・能「船弁慶」津村禮次郎ほか。
会費/「賛助会員」6000円、「一般」4000円、「学生」(高校生以下)2000円。
申込/「賛助会員」往復ハガキに住所、氏名、年齢、電話番号、人数、返信用の宛先を明記の上、小金井薪能事務局まで郵送(〒184-0004 小金井市本町5-6-22)。「一般・学生」長崎屋小金井店1階、西友小金井店3階、宮路楽器小金井店、JR武蔵小金井駅・東小金井駅・国分寺駅の各みどりの窓口、都内チケットぴあ取扱店などで販売。
【船弁慶・あらすじ】
 平家が滅びた後、猜疑心の強い兄・源頼朝から謀反人の扱いを受けた源義経は、京を追われ、西国落ちを決意する。摂津国尼崎大物浦まで到着したとき、義経は愛妾・静御前を都へ帰すことに。静は惜しき別れに「中之舞」を舞う。〈中入り〉一行が船出をすると、にわかに海が荒れ、壇ノ浦の合戦で死んだ武将・平知盛をはじめとする平家の怨霊たちが現われる。知盛の霊は、「舞働」を舞って一行に襲いかかるが、弁慶の必死の祈祷に、亡霊は波間に消えていく。

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